大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)49号 判決 1991年3月29日
原告
吉本冨士夫
右訴訟代理人弁護士
岡島嘉彦
甲事件被告
(南税務署長事務承継者)豊能税務署長
佃晴海
乙事件・丙事件被告
国
右代表者法務大臣
左藤恵
右被告ら指定代理人
井越登茂子
外三名
右被告国指定代理人(但し、乙事件を除く。)
村松美津夫
同
宮岡孝
主文
一 被告豊能税務署長が昭和五〇年五月七日付でした次の処分を取り消す。
1 原告の昭和四七年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち一〇〇七万円を超える部分。
2 原告の昭和四八年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち八七二万円を超える部分。
二 原告の被告豊能税務署長に対するその余の請求及び被告国に対する各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告と被告豊能税務署長の間に生じた費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余は被告豊能税務署長の負担とし、原告と被告国の間に生じた費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(甲事件)
1 被告豊能税務署長が昭和五〇年五月七日付でした次の処分を取り消す。
(一) 原告の昭和四七年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち九五〇万二二〇〇円を超える部分。
(二) 原告の昭和四八年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち三五八万六二〇〇円を超える部分。
2 訴訟費用は、被告豊能税務署長の負担とする。
(乙事件)
1 被告国は、原告に対し、三三七四万七七〇〇円及びこれに対する昭和五一年一二月一七日から支払ずみまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告国の負担とする。
3 仮執行宣言
(丙事件)
1 被告国は、原告に対し、八六七万六六〇〇円及びこれに対する昭和六二年四月二九日からその還付のための支払決定の日まで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告国の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(甲事件)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
(乙及び丙事件)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 予備的に仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
(甲事件)
一 請求原因
1 原告は、中喜商店との名称で、本店を大阪市南区横堀七丁目二五番地に置き、銘木販売業を営んでいたものであるが、昭和五五年三月一五日、納税地を大阪府豊中市永楽荘一丁目三番三四号に移転した。
2 原告の昭和四七年分及び昭和四八年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税について、原告のした確定申告及び修正申告(以下「本件各修正申告」という。)、並びにこれに対して南税務署長のした重加算税の賦課決定(以下「本件各決定」という。)、これに対する審査請求と国税不服審判所長の裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。
3 南税務署長がした本件各決定は、以下の理由によりいずれも違法である。
(一) 本件各修正申告のうち、(1)及び(2)で主張する部分については、錯誤に基づくものであり、右錯誤は客観的に明白かつ重大であり、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当するというべきであるから、無効である。
その経緯は次のとおりである。
(1) 原告の昭和四七年分の所得税の修正申告(以下「四七年修正申告」という。)のうち、事業所得にかかる修正申告の内容は、別表二の修正申告額欄記載のとおりであり、このうち、期末商品棚卸高として一億一三一五万一七九〇円を申告している。
(2) 原告の昭和四八年分の所得税の修正申告(以下「四八年修正申告」という。)のうち、事業所得にかかる修正申告の内容は、別表三の修正申告額欄記載のとおりであり、このうち、仕入金額として二八億〇七四二万八八二〇円、期末商品棚卸高として三億二七八一万四八三一円、必要経費として一億四〇七三万七五五八円をそれぞれ申告している。
(3) ところが、本件各修正申告のうち、右(1)の昭和四七年の期末商品棚卸高は九八〇八万六二四七円である。
また右(2)の昭和四八年の仕入金額は二八億一八〇八万八八二〇円、期末商品棚卸高は二億九二九三万二三五八円、必要経費は一億四〇七四万九五五八円である。
(4) 昭和四七年の期末商品棚卸高が九八〇八万六二四七円となる理由は以下のとおりである。
すなわち、原告は、昭和四七年の期末の実地棚卸を、同年一二月二〇日から二五日にかけて実施し、右実地棚卸後年末までの売上分(いわゆる売上帳端分)を翌昭和四八年一月分の売上としていたが(なおこの翌期計上の事実については、原告自身は知らなかったものである。)、大阪国税局(以下「国税局」という。)査察部(以下「査察部」という。)は、右売上帳端分は昭和四七年分の所得に含まれるとして、同年の売上に加えた。その際、査察部は、右帳端分の売上に対応する原価については、絞丸太についての売上を拾い出してその原価計算をして期末棚卸額から控除したのみで、絞丸太以外の商品の売上原価を期末棚卸額から控除していなかった。右売上帳端分中、絞丸太以外の商品の売上高は一七〇〇万九七五八円であり、右売上高に対する売上原価は別紙一記載のとおり一五〇六万五五四三円になるので、同年の期末棚卸高は一億一三一五万一七九〇円から一五〇六万五五四三円を控除した九八〇八万六二四七円となる。
(5) 昭和四八年の仕入金額が二八億一八〇八万八八二〇円、期末商品棚卸高が二億九二九三万二三五八円、必要経費が一億四〇七四万九五五八円となる理由は以下のとおりである。
まず、仕入金額については、長谷川雅一(以下「長谷川」という。)からの絞丸太一〇六六万円の仕入につき、査察部は昭和四九年分の仕入と認定したが、右仕入は昭和四八年一二月ころになされたものであるから、同年の仕入金額に加えるべきものであり、同年の仕入金額は、二八億〇七四二万八八二〇円に一〇六六万円を加えた二八億一八〇八万八八二〇円となる。
次に、期末商品棚卸高については、原告は、昭和四八年の期末の実地棚卸を、同年一二月二〇日から二五日にかけて実施し、売上帳端分を翌昭和四九年一月分の売上としていたが、査察部は、右売上帳端分は昭和四八年分の所得に含まれるとして、同年の売上に加えた。その際、査察部は、右帳端分の売上に対応する原価については、絞丸太についての売上を拾い出してその原価計算をして期末棚卸額から控除したのみで、絞丸太以外の商品の売上原価を期末棚卸額から控除していなかった。右売上帳端分中絞丸太以外の商品の売上高は三七九一万五七三一円であり、右売上高に対する売上原価は別紙二記載のとおり三四八八万二四七三円になるので、同年の期末棚卸高は三億二七八一万四八三一円から三四八八万二四七三円を控除した二億九二九三万二三五八円となる。
さらに、昭和四八年修正申告には、同年度組合費一万二〇〇〇円が必要経費として含まれていなかったので、同年の必要経費は一億四〇七三万七五五八円に一万二〇〇〇円を加えた一億四〇七四万九五五八円となる。
(6) 右のような修正申告をなすに至った事情は次のとおりである。すなわち、査察部は、昭和四九年五月二七日、原告に対する強制調査に入り、一切の会計帳簿、すなわち元帳及び仕入帳、売掛帳等の補助簿、仕入伝票等取引に関するすべての証憑書類を差押え押収し、その後、原告はじめ原告の従業員、取引先等を昭和五〇年四月ころまで調査した。そして、査察部収税官吏田川光雄(以下「田川査察官」という。)ら担当査察官は、原告の顧問税理士中道敏夫(以下「中道税理士」という。)に対し、右調査に基づいて、増差表を示し、本件各係争年分の所得税の修正申告に必要な所得金額を示し、また、その前日ころには、原告を国税局に呼び出し、修正申告をするように指示した。そして原告は、本件各修正申告を行った。
原告の右修正申告に先立ち、田川査察官は中道税理士に対し、修正申告をなすよう強い行政指導をなし、また、原告に対しても修正申告をなすよう強く勧めるとともに、修正申告をすれば告発がないかもしれないとの虚偽の違法な利益誘導を行った。中道税理士は、右査察官から示された金額を原告に示し、査察部の所得金額の調査に誤りがあろうはずがないし、査察部の示した金額で申告するより他に方法がない旨述べたので、原告は、右示された所得金額が何を根拠にどのような計算により算出されたのか、何らの説明を受けないまま、かつ帳簿等一切を押収され、これが正確かどうか検証する方法もないまま、昭和五〇年四月一七日、示された金額を正しいものと誤信して過大な修正申告をしたのである。そして、真実か否かの検討の手段を持たない原告にとっては、示された所得金額を正しいものと信じたのは当然で無理からぬところであった。
(二) 任意性の欠如
本件各修正申告は次のとおり任意になされたものではなく無効なものであるから、これに対して南税務署長がした本件各決定は違法なものである。
すなわち、修正申告は、納税者自身が自己の所得金額と税額を確認して租税官庁に通知する行為であるが、納税者自身が自己の所得金額と税額を確認するためには、自己の自由な意思と自己の責任においてなす所得計算が不可欠の前提となる。
ところが、本件における原告の修正申告は、(一)(6)記載の経過からなされたものであり、自己の自由意思による自己の責任において所得計算がなされた結果の申告ではないから、本件各修正申告は任意になされたものとはいえず無効である。
(三) 本件各決定は、原告が売上を一部除外し、受領した手形を簿外にするなどしたうえ、申告にあたっては正規の決算手続によることなくいわゆるつまみ申告をしたものであるとして、原告のした確定申告と修正申告の差額を全て(ただし、青色申告取消による肯否認額を除く。)重加算税の対象となる所得と認定した違法がある。
4 よって、原告は、原告の昭和四七年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「昭和四七年決定」という。)のうち九五〇万二二〇〇円を超える部分及び原告の昭和四八年分所得税にかかる重加算税賦課決定(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「昭和四八年決定」という。)のうち三五八万六二〇〇円を超える部分の各取消しを求める。
二 請求原因に対する認否及び反論
(認否)
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2(一) 同3(一)の冒頭の主張は争う。
(二) 同3(一)(1)及び(2)の各事実は認める。
(三) 同3(一)(3)及び(4)の各事実は否認する。
(四) 同3(一)(5)のうち、長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入につき、査察部が昭和四九年分の仕入と認定したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(五) 同3(一)(6)のうち、査察部が昭和四九年五月二七日、原告に対する強制調査に入り、会計帳簿、すなわち元帳及び仕入帳、売掛帳等の補助簿、仕入伝票等取引に関する証憑書類を差押え押収し、その後、原告はじめ原告の従業員、取引先等を昭和五〇年四月ころまで調査したこと、田川査察官ら査察部の担当査察官は、中道税理士に対し、右調査に基づいて、本件各係争年分の所得税の修正申告に必要な所得金額を示したこと、また、原告に対しても修正申告についての説明を行ったこと、及び昭和五〇年四月一七日、原告が本件各修正申告をしたことは認め、査察部が押収した右書類がすべての証憑書類であったことは知らず、その余の事実は否認する。
3(一) 同3(二)のうち、修正申告の性質が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。
(二) 同3(三)の主張は争う。
(反論)
1 申告納税制度における納税申告は、課税標準及び税額等の基礎となる要件事実を納税者自身が確認し、一定の方式で租税債務の内容を具体的に確定し、これを租税行政庁に通知する私人の公法行為であり、修正申告も納税申告の追加申告としての意味をもつものであるから、その性格は当初の納税申告である確定申告と基本的に異なるものではない。
また、修正申告は、確定申告書を提出した納税者が、これを提出した後法定期間内において、申告書に記載した所得金額が適正に計算した所得金額に比して過少である場合に、これを修正することを目的とするものであり、その申告が税務署長になされると同時にこの修正によって増加した所得金額はそのまま確定し、納税者はその申告書の提出により直ちにこれに記載した所得税額を納付すべき義務を負担するものである。私人たる納税者がする修正申告は、納税者から税務署長に対する不対立関係においてなされるものであるから公法的性質を有し、その申告行為はいわゆる私人のなす公法的行為であるといわなければならない。
このように本件各修正申告も修正申告書の提出によって、既に所得金額及び税額は確定している。
2 本件各修正申告の任意性について
本件各修正申告当時、原告は、必要な帳簿書類等については国税局で閲覧謄写をすることができたこと、本件各修正申告をなす数日前には、中道税理士が国税局に呼ばれ、そこで増差表を確認し、修正申告をするために必要な各項目にわたる金額の数字を聞いていること、その前日ころには、原告自身国税局に呼ばれ、修正申告についての説明を受けていること、及び原告は、中道税理士に間違いのないことを確認してから本件各修正申告を行っていることをあわせ考えると、原告及び中道税理士は、修正申告すべき内容について十分に確認し、かつ納得したうえで申告したものというべきであって、本件各修正申告は任意になされたものといえる。
3 本件各修正申告に錯誤により無効となるべき特段の事情が存しないことについて
(一) 納税義務者が、修正申告について錯誤による無効を主張できるのは、申告書の記載内容についてその錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた過誤是正以外の方法による是正を許さないとすれば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られるが、客観的に明白であるか否かは、修正申告がなされた時点を基準として判断されるべきである。
(二) 本件各修正申告については、2記載のとおり、原告及び中道税理士は、修正申告すべき内容について十分に確認し、かつ納得したうえで申告したものというべきであり、査察官から示された数額を盲目的に信用して作成されたものとは到底いい難い。
また、本件各修正申告の提出(昭和五〇年四月一七日)以前に、原告から昭和四九年分の確定申告書が昭和五〇年三月一五日の法定申告期限までに提出されているが、所得税法上、事業所得金額の計算においては商品棚卸金額等のように翌年分へ引き継がれる計数があり、この昭和四九年分の事業所得金額の計算においても昭和四八年分修正申告書記載の事業所得の決算事項を前提としてこれを引き継いで計算されており、昭和四八年分の修正申告書に記載した事業所得の決算事項の計数を正確に把握していなければ、昭和四九年分の正確な事業所得の計算はできない。すなわち、商品棚卸高の場合、昭和四八年分の期末商品棚卸金額は昭和四九年分の期首商品棚卸金額に引き継がれるのであって、昭和四八年分の期末商品棚卸金額をはじめ翌年分へ引き継がれる計数を正確に把握していなければ、昭和四九年分の事業所得を正確に算出することはできない。したがって、商品棚卸高のように翌年分に引き継がれる金額については十分に検討されていなければ、各年分の申告内容の計算が継続性を持たないものであるところ、本件の場合、昭和四六年分ないし昭和四八年分の修正申告及び昭和四九年分の確定申告において、各年分の計数が継続性をもったうえで各年分の事業所得の金額が計算されているものである。したがって、その数額については十分に検討されているというべきであり、本件各修正申告のみに重大な錯誤があるということはできない。
(三) 原告は、本件各修正申告における期末商品棚卸高について、帳端売上に対応する原価が控除されていない旨主張する。
しかしながら、通常期末商品棚卸高は一二月三一日における在り高を意味するものであり、原告も、実地棚卸期間中及びその後に荷動きのあった商品は削除し、入荷した商品は付け加えることにより、一二月三一日における在り高を期末商品棚卸高として修正申告していたものというべきであるから、帳端売上にかかる原価は既に控除されているものといえ、この点に関し何等の錯誤も存しない。
(四) 原告は、長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入につき、昭和四八年の仕入として計上すべきである旨主張する。
しかしながら、原告の帳簿には、昭和四九年一月六日に中善林業(長谷川の仮名)から六九六万円、同月八日に福本木材(長谷川の仮名)から三七〇万円でそれぞれ仕入れた旨記載されており、これが昭和四九年の仕入となることは明らかである。
また、仮に右仕入が実際には昭和四八年の仕入であったとしても、原告は、右仕入については昭和四八年の確定申告及び修正申告には計上しておらず、逆に昭和四九年分に属するものとして同年の確定申告に仕入として計上していることからすれば、原告は、当初から右仕入については昭和四九年の仕入として計上する意図であったものといえ、この点についても何等の錯誤も存しない。
(五) 原告は、昭和四八年分の必要経費に、同年度組合費一万二〇〇〇円を加算すべきであると主張する。
しかしながら、原告が昭和四八年度の組合費として一万二〇〇〇円を支出したか否かは不明であるうえ、仮に同年度の組合費としても、金額がきわめて少額であることから、客観的に明白かつ重大な錯誤とはいえない。
三 被告豊能税務署長の主張
1 原告の昭和四七年分の重加算税及び過少申告加算税(両者をあわせて、以下「重加算税等」という。)の計算の基礎となった各対象所得の額は、別表四の昭和四七年分欄のとおりであり、このうち、事業所得についての内訳は、別表二のとおりである。また、重加算税等の額は、別表五のとおりである。
2 原告の昭和四八年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額は、別表四の昭和四八年分欄のとおりであり、このうち、事業所得についての内訳は、別表三のとおりである。また、重加算税等の額は、別表六のとおりである。
3 本件各決定の適法性について
(一) 国税通則法六八条に規定する重加算税は、故意に納税を免れたことに対する制裁ではないから、重加算税を課すためには、納税者が故意に課税要件事実を隠ぺい等し、その行為を原因として過少申告の結果が発生すれば足り、過少申告を行うことの認識まで必要とするものではない。
すなわち、重加算税の賦課要件としての故意というのは、期中における経理処理の際に、課税要件となる事実についてこれを仮装または隠ぺいすることについての認識があれば足り、その後、当該事業年分の税の申告に際し、右仮装または隠ぺいした事実に基づいて申告したり、あるいは申告しないなどという点についての認識を必要とするものではない。そして、たとえ、期中において経理ミスなどによって、行為者の意識しない事実に相反する経理処理がなされたとしても、申告期限前にこの誤処理を発見しながら、これを訂正しなかった場合には、訂正しないという積極的な意識がある以上、その時点で事実を仮装または隠ぺいしたことになり、また認識して訂正しない点で故意が認められることになる。
(二) これを本件についてみるに、原告は、顧客から売上先名の秘匿を依頼されてこれを帳簿に記載しなかったうえ、税を免れる意図で現金売上の一部除外あるいは架空仕入等の不正な計算を行い、また、帳端売上(帳簿締切日以後の当該締切日の属する年分の売上金額)の整理などの正当な決算整理を行わず、さらに期末商品棚卸高について実際の在高とは関係なく、あらかじめ定めた所得金額に対応させるなどの方法により、各年分の事業所得の金額について殊更に過少な所得金額を記載した確定申告書を提出していたものである。したがって、本件各係争年分について、事実の仮装または隠ぺいして正当な所得金額より殊更に過少に算定した不正な決算書を作成して、これに基づいて確定申告書を提出したものであり、重加算税の課税要件を充分するというべきである。
(三) 原告の昭和四八年の仕入金額中には、渡部木材工業株式会社(以下「渡部木材」という。)からの仕入八五〇万円、東邦産業株式会社(以下「東邦産業」という。)からの仕入九一四万一二六三円及び貿易勘定分七一八万六〇五〇円の合計二四八二万七三一三円が計上されていたが、これらは、以下に述べるとおり、返品したものを返品処理せず、あるいは、仕入を二重に計上するなどの方法により仕入金額を架空に計上していたものであり、重加算税賦課の要件である仮装または隠ぺいの行為が存したことは明らかである。
(1) 渡部木材からの仕入八五〇万円について
原告は、渡部木材に対し融通手形八五〇万円を発行したことを奇貨として、仕入の事実や納品書もないのに、意図的に仕入帳の仕入金額欄に記帳し、仕入の過大計上をなしたものである。
仮に、記帳ミスから過大計上となったとしても、昭和四八年五月末に、原告の従業員である岡安秋(以下「岡」という。)が退職した後、税理士が月々の試算表を作成しており、その月々の試算表から経理に誤りがあるのが分かるのであるから、渡部木材の仕入の記帳ミスについても、金額が高額に上るために仕入の過大計上については試算表ですぐ誤りが判明したというべきであり、原告は、右経理上の誤りを知りながら、これを放置していたものである。
(2) 東邦産業からの仕入九一四万一二六三円について
原告は、東邦産業から、台湾産の欄間の輸入商品を仕入れていないにもかかわらず、架空の取引を作出して九一四万一二六三円を仕入に計上したものである。
仮に、架空取引ではなかったとしても、右商品については昭和四八年中には仕入ができなかったのであるから、取引金額が高額であったことからすると、昭和四八年に仕入ができなくなった時点で本来仕入を訂正すべきであったのに、原告は、右訂正をなさず、右誤りを放置していたものである。
(3) 貿易勘定七一八万六〇五〇円について
原告は、貿易勘定の経理処理において、以下のとおり、意図的に伝票の訂正に仮装して架空仕入の計上をしている。すなわち、まず、①昭和四八年五月三一日、借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円との振替伝票が岡によって起票されたが、原告は、これの訂正と称して、②同年六月二六日、借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方大和銀行三五九万三〇二五円、③同月二七日、借方未払金三五九万三〇二五円、貸方大和銀行三五九万三〇二五円、④同年八月三〇日、借方貿易勘定未払金三五九万三〇二五円、貸方仕入三五九万三〇二五円、⑤同年一〇月二日、借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円、⑥同日、借方仕入三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円との五回にわたる訂正伝票を起票し、このことにより、一回の取引にもかかわらず、仕入を三重に計上して、七一八万六〇五〇円の架空仕入を計上したものである。
仮に、貿易勘定についての原告の理解不足から生じた伝票の起票誤りであったとしても、一回だけの取引から銀行支払が二回行われ、さらに未払金を計上しているのであるから、原告は、その時点で伝票処理に誤りがあったことを認識しながら、これを放置したものである。
四 被告豊能税務署長の主張に対する原告の認否及び反論(認否)
1 被告豊能税務署長の主張1のうち、原告の昭和四七年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額のうち、別表四の昭和四七年分欄記載の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得及び⑥譲渡所得の各欄、及び確定申告額欄及び修正申告額欄について、並びに事業所得の内訳のうち、別表二の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①売上金額、②期首商品棚卸高、③仕入金額、⑦必要経費及び⑨青色申告特典控除額の各欄、及び確定申告額欄及び修正申告額欄については認め、その余の主張は争う。
2 同2のうち、原告の昭和四八年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額のうち、別表四の昭和四八年分欄記載の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得、⑥譲渡所得及び⑦雑所得の各欄、及び確定申告額欄及び修正申告額欄について、並びに事業所得の内訳のうち、別表三の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①売上金額欄及び⑨青色申告特典控除額欄、及び確定申告額欄及び修正申告額欄については認め、その余の主張は争う。
3 同3(一)及び(二)の各主張は争う。
4(一) 同3(三)冒頭の主張は争う。
(二) 同3(三)(1)のうち、昭和四八年五月末に岡が退職したこと及び岡の退職後は税理士が月々の試算表を作成していたことは認め、その余の主張は争う。
(三) 同3(三)(2)の主張は争う。
(四) 同3(三)(3)のうち、貿易勘定の経理処理において、被告主張の①の振替伝票が岡によって作成されたこと及び原告が、右振替伝票の訂正のため、被告主張の②ないし⑥の訂正伝票を作成したことは認め、その余の主張は争う。
(反論)
1 原告の昭和四七年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額は、別表七の昭和四七年分欄のとおりであり、このうち、事業所得についての内訳は、別表八のとおりである。また、重加算税等の額は、別表九のとおりである。
2 原告の昭和四八年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額は、別表七の昭和四八年分欄のとおりであり、このうち、事業所得についての内訳は、別表一〇のとおりである。また、重加算税等の額は、別表一一のとおりである。
3 本件各決定の違法性について
(一) 国税通則法六八条一項に規定する重加算税の対象となる所得は、「納税者がその国税の課税標準等または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいしまたは仮装し、その隠ぺいまたは仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」に該当する場合に限り賦課決定されるもので、仮装または隠ぺいとは無関係に生じた収入の過少記載やまたは経費の過大記載、例えば誤記・誤算・不注意や思い違い等に基づく帳簿、伝票等への過大計上や記帳洩れと、これを知らず右帳簿に基づいてなされた決算及び所得の過少申告によって免れた所得税は重加算税の対象たる所得に包含されないというべきである。
(二) 渡部木材からの仕入八五〇万円について
原告は、渡部木材との間で融通手形八五〇万円を交換したが、右事情を知らない岡は、支払手形につき、これを買掛金の支払のための手形振出と勘違いし、その旨の振替伝票を作成した。
岡は昭和四八年五月末日までに退職したため、経理知識の乏しい原告が見様見まねでこの買掛金勘定を消すべく、振替伝票を同年六月三〇日に作成した。そこでこれを元帳に転記する際、岡が辞めたあとの同年六月一日から経理の手伝いをしていた原告の妻吉本清枝(以下「清枝」という。)が、転記を誤り、仕入帳に△(赤字)八五〇万円と記載すべきところ、仕入帳の仕入金額欄に記帳してしまったため、仕入に計上されてしまい、これが仕入集計表に集計されたものである。つまり、渡部木材との買掛金勘定は帳じりが合ったものの、その相手勘定につき△(赤字)とすべきところ、経理に不慣れな清枝がそのまま計上したことにより仕入の過大計上が発生したものである。
そして、原告は、このような誤りがあることは、査察部の調査があるまで全く知らなかったものである。
(三) 東邦産業からの仕入九一四万一二六三円について
東邦産業からの右仕入については、原告は、台湾産の欄間の輸入商品を現実に仕入れており、架空の仕入ではない。すなわち、原告は、東邦産業との間で売買契約を締結し、昭和四八年一二月二〇日には大和銀行茨木支店を支払場所とする約束手形を振出し、これを交付しており、昭和四九年三月三一日に決済されている。また、当該商品も昭和四八年末には港に入荷されていたが、店舗への搬入はいまだできていなかった状態にあり、倉庫料を支払って、藤原運輸の倉庫に保管していたのである。そして、これを現実に引取ったのは昭和四九年三月か四月ころである。
国税局は実地棚卸に記載がないとの理由で、架空仕入と断じたものであるが、現実に店舗倉庫に着荷していなくても、運送中の商品は未着商品として、また、本件のように他に預けているときは預け商品として仕入に計上すべきものである。
(四) 貿易勘定七一八万六〇五〇円について
原告が、昭和四八年八月三〇日に、被告豊能税務署長の主張3(三)(3)記載の④の訂正伝票を起票したのは、原告には経理知識が少なく、貿易勘定についての理解不足から、同年五月三一日の貿易勘定は仕入と解釈したためであり、また、同年一〇月二日に、同記載の⑤及び⑥の訂正伝票を起票したのは、貿易勘定未払金を消すためにしたところが、さらに誤りを犯す結果となったものである。
原告は、岡がいたからこそ、貿易関係の仕事やその経理ができていたのであり、岡の退職後は、この関係の仕事は全くできなかった事情にある。また、原告は、元帳を税理士事務所に預けることとし、同事務所に記帳を依頼していたのであるから、もし振替伝票に誤りがあれば、税理士事務所の指導指摘があるものと期待していた。しかし、税理士事務所からは何らの指摘もなかったため、原告は、右伝票処理で正しいものと信じていたのである。
五 被告豊能税務署長の反論に対する原告の再反論
1 被告豊能税務署長は、原告が本件各修正申告をする以前に、昭和四九年分の確定申告書を提出していることをもって、本件各修正申告の期末商品棚卸高について正しく認識していた旨主張する。
しかしながら、原告が査察部の査察を受けているうちに、昭和四九年分の確定申告書提出の期限が迫り、申告の必要があったため、原告が申告に必要な期首商品棚卸高を担当査察官に聞いたところ、査察官から確定申告書記載のとおりの期首商品棚卸高の教示があり、これにより申告されたいとのことであったので、原告は、この数額が正しいものと盲目的に信じ、その数字により申告したものであり、原告が独自に算出したものではない。
2 被告豊能税務署長は、期末商品棚卸高について、帳端売上に対応する原価は既に控除されていた旨主張する。
しかしながら、査察部は、査察及び告発の段階では、実地棚卸をした一二月二五日以降の売上のうち、床柱である絞丸太のみの売上を拾い出し、これの原価計算をし、実地棚卸から控除して、昭和四七年及び昭和四八年の期末棚卸とする一方、売上帳端に対応する期間の仕入が翌年の仕入になっていたので、それも仕入当該年分に加算したものである。査察部が、絞丸太のみをこのように控除したのは、絞丸太は高価なうえに一本一本売却先が調査できるので、帳端売上であることが明確であり、期末棚卸には存在しえないことが明瞭であったためである。したがって、査察部に指示された金額により原告が修正申告した所得金額も、絞丸太について、帳端売上に対応する原価を期末商品棚卸高から控除した数字であり、被告豊能税務署長の右主張は右修正申告までをも否定することになり、これが失当であることは明らかである。
3 被告豊能税務署長は、長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入につき、原告の帳簿に、昭和四九年一月六日に中善林業から六九六万円、同月八日に福本木材から三七〇万円でそれぞれ仕入れた旨記載されていることから、昭和四九年の仕入となることは明らかである旨主張する。
しかしながら、帳簿上右のような記載になったのは、昭和四八年に長谷川から仕入入荷したものの、同人より次年分の仕入として欲しい旨の要望を受け、これを原告が経理記帳していた清枝に指示して翌年回しとさせたところ、清枝が昭和四九年一月六日及び同月八日と記載したためである。
(乙事件)
一 請求原因
1 甲事件における請求原因1記載のとおり。
2 原告の本件各係争年分の所得税について、原告のした確定申告及び修正申告の経緯は、別表一の確定申告欄及び修正申告欄に各記載のとおりである。
本件各修正申告にともない、確定申告に基づく税額との差額が、それぞれ昭和四七年分につき四四六三万四八〇〇円、昭和四八年分につき六一五九万七三〇〇円生じたため、原告は、右金額を昭和五〇年四月一七日から昭和五一年一二月一六日にかけて分割して被告国に納付した。
3 しかしながら、本件各修正申告は、甲事件における請求原因3(一)(錯誤無効)記載のとおり無効である。
4(一) 原告の昭和四七年分の所得額は、別表七の昭和四七年分欄の確定申告額欄、修正所得額欄及び修正増加所得欄のとおりであり、修正増加所得額は五三三五万二六〇七円となり、これに対する修正増差税額は三三七五万三八〇〇円となる。
(二) 原告の昭和四八年分の所得額は、別表七の昭和四八年分欄の確定申告額欄、修正所得額欄及び修正増加所得欄のとおりであり、修正増加所得額は五七八五万八二七九円となり、これに対する修正増差税額は三八七三万〇六〇〇円となる。
(三) したがって、原告は、昭和四七年分については一〇八八万一〇〇〇円、昭和四八年分については二二八六万六七〇〇円の合計三三七四万七七〇〇円の所得税を被告国に過大に納付したことになる。
5 3記載のとおり本件各修正申告は無効であるから、被告国は、4(三)記載の三三七四万七七〇〇円について、法律上の原因なくして、原告の損失において不当に利得しているものである。
6(一) 本件各修正申告がなされた経緯は、甲事件における請求原因3(一)(6)記載のとおりである。
(二) 田川査察官らは、原告の所得調査をなすにあたっては十分原告の主張にも耳を傾け、経理処理上の会計原則を守り、正確な収益と損失を調査確定すべき職務上の義務を有する。
にもかかわらず、田川査察官らは、杜撰な税務調査を行い、そのために甲事件における請求原因3(一)(6)記載のとおり誤った処理をし、かつ、右誤った処理に基づく所得税額を原告に示して本件各係争年分の修正申告をしょうようしたものである。
(三) したがって、被告国の公権力の行使にあたる公務員である田川査察官らの故意または過失に基づく誤った調査、処理及び原告に対する本件各修正申告のしょうようのために、原告は4(三)記載の三三七四万七七〇〇円の損害を被ったものというべきである。
7 よって、原告は、被告国に対し、不当利得返還請求権あるいは国家賠償請求権に基づく三三七四万七七〇〇円の支払、及びこれに対する原告が被告国に対して本件各修正申告による税額と確定申告による税額との差額を納付した最終日の翌日である昭和五一年一二月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告国の反論
(認否)
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 同3のうち、本件各修正申告が無効であるとの主張は争い、甲事件における請求原因3(一)(錯誤無効)の記載内容については、これに対する被告豊能税務署長の認否のとおりである。
3(一) 同4(一)のうち、原告の昭和四七年分の所得額のうち、別表七の昭和四七年分欄記載の修正所得額欄及び修正増加所得欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得及び⑥譲渡所得の各欄並びに確定申告額欄は認め、その余の主張は争う。
(二) 同4(二)のうち、原告の昭和四八年分の所得額のうち、別表七の昭和四八年分欄記載の修正所得額欄及び修正増加所得欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得、⑥譲渡所得及び⑦雑所得の各欄並びに確定申告額欄は認め、その余は争う。
(三) 同4(三)の主張は争う。
4 同5の主張は争う。
5(一) 同6(一)については、甲事件における請求原因3(一)(6)に対する被告豊能税務署長の認否のとおりである。
(二) 同6(二)のうち、田川査察官らが、原告の所得調査をなすにあたっては十分原告の主張にも耳を傾け、経理処理上の会計原則を守り、正確な収益と損失を調査確定すべき職務上の義務を有することは認め、田川査察官らが杜撰な税務調査を行い、そのために誤った処理をなし、かつ、右誤った処理に基づく所得税額を原告に示して本件各係争年分の修正申告をしょうようしたとの事実は否認し、甲事件における請求原因3(一)(6)の記載内容については、これに対する被告豊能税務署長の認否のとおりである。
(三) 同6(三)の主張は争う。
(反論)
1 本件各修正申告は、甲事件における被告豊能税務署長の反論のとおり有効なものである。
2 納税申告書を提出した者等が、後発的に税額の減額事由が生じたときの救済については、国税通則法二三条の更正の請求という制度による是正手段が設けられているのであるから、これによらず、直ちに民法上の不当利得返還請求権を行使することは許されないというべきである。
したがって、原告は、右更正請求による是正が可能であったのにその請求をしなかった以上、不当利得返還請求は発生せず、その行使もできないというべきである。
三 抗弁
1 過誤納金返還請求権(不当利得返還請求権)の消滅時効
原告は、民法上の不当利得の規定に基づき、本訴請求を行っているが、不当利得の適用を肯定すべき場合であっても、公法の規定の中に不当利得の特則が定められている場合においては、右特則が優先的に適用されるべきであるから、本件においては、国税通則法五六条ないし五九条及び七四条の規定が適用されることとなる。
そして、同法七四条は、過誤納金返還請求権については、その請求をすることができる日から五年間行使しないことによって、援用を要せず消滅する旨規定し、同条にいう「その請求をすることができる日」とは、無効な申告または賦課決定に基づく納付の場合、その納付のあった日であって、この理は、刑事判決確定前に時効期間が経過する場合であっても、還付請求や訴訟の提起など時効中断の手段を講ずることが法律上可能である以上、別異に解すべき理由はない。
これを本件についてみるに、原告が返還を求める所得税が最終に納付されたのは昭和五一年一二月一六日であり、本訴が提起されたのは右納付の日から五年を経過した後である昭和六一年一〇月八日であって、仮に原告主張のとおり過誤納金返還請求権が発生していたとしても、右納付時点より五年が経過することにより、右請求権は援用を要することなく既に時効により消滅したものというべきである。
2 国家賠償請求権の消滅時効
本件刑事事件の判決において認定された期末商品棚卸高減額分三四八八万二四七三円及び長谷川からの絞丸太の仕入金額一〇六六万円について、原告は、田川査察官らから指導されて修正申告したものと主張しているが、その誤りについては、原告に対する所得税法違反被告事件(第一審大阪地方裁判所昭和五一年(わ)第一三三号、控訴審大阪高等裁判所昭和五七年(う)第一〇一六号。以下「本件刑事事件」という。)の第一審における昭和五一年一〇月一九日付冒頭陳述書第二の三項ないし五項及び同年一二月二日付冒頭陳述の訂正申立書において、原告が明確に指摘しているところからすると、原告は、遅くとも同年一二月二日までには原告主張の不法行為に関する損害の発生及び加害者を知っていたものと認められ、したがって、消滅時効の起算点は遅くとも同年一二月二日というべきであって、原告が本訴を提起した昭和六一年一二月一六日には、既に右起算点から三年を経過していることが明らかであるから、原告の損害賠償請求権は、時効により消滅しているというべきである。よって、被告国は、本訴(昭和六三年三月二二日の第九回口頭弁論期日)において、右消滅時効を援用する。
3 収益と費用とが期間的に対応することとされている事業所得に係る所得税や法人税にあっては、ある期に仮に過大な税金を納付したとしても翌期以降の課税で救済される措置がある。
したがって、納税者(義務者)が実質的に先の課税について翌期以降の課税で救済を受けることができる場合においては、徴収済の税額について、これを不当利得であるとして返還請求することは認められないと解すべきである。
本件の場合、原告は、当初、本件各修正申告は正しいものと認識しており、また、当時、原告には税理士が関与していたことから、原告は、本件各修正申告が正しいことを前提として、昭和四九年分の確定申告をしているものと推認される。すなわち、原告が本件各修正申告に重大な誤謬があると主張する期末商品棚卸高減額分三四八八万二四七三円及び長谷川からの絞丸太の仕入金額一〇六六万円は、いずれも翌年分に引継がれ、あるいは既に必要経費に算入されているものと推認され、このことからすると、仮に本件各修正申告に原告主張のような錯誤があったとしても、昭和四九年分の確定申告で是正あるいは救済されているというべきである。
四 抗弁に対する認否及び原告の反論
(認否)
1 抗弁1のうち、原告が返還を求める所得税が最終に納付されたのが昭和五一年一二月一六日であることは認め、その余の主張は争う。
2 抗弁2及び3の各主張は争う。
(反論)
抗弁3について
被告国は、納税者(義務者)が実質的に先の課税について翌期以降の課税で救済を受けることができる場合においては、徴収済の税額について、これを不当利得であるとして返還請求することは認められないと解すべきであると主張する。
しかしながら、当該年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額または総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがある場合を除き、その年において収入すべき金額とする(所得税法三六条)とされており、また、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得総収入金額に係る売上原価、その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする(同法三七条)と規定されているのである。また、所得税額は法人税とは異なり、課税総所得金額に応じて税率が高くなる累進税率となっているため、当年分に計上すべき必要経費が繰り越されて翌年分の必要経費とされていても、それにより直ちに救済されているとは云い得ないのであり、いずれにせよ、被告国の右主張は失当である。
五 再抗弁
不当利得返還請求権及び国家賠償請求権の消滅時効をいう被告国の主張は、以下述べるとおり、信義誠実の原則に違反し、権利の濫用というべきである。
1(一) 国税通則法五六条一項には、国税局長、税務署長は、還付金または国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならないと定めている。そして、同法五七条には、国税局長、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、前条一項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならないと規定されている。つまり、国税局長等は、過誤納金があるときは遅滞なく、還付しなければならない法律上の義務を有するものといわなければならない。
そして、当時原告には重加算税、延滞税の一部が未納付となっていたので、職権により還付に代え、重加算税等に充当すべきであったのである。
(二) しかるに、原告が査察部による査察終了後に示された所得金額に何らの疑念を抱かずこれに従い、本件各修正申告をしたところ、国税局長は、修正申告し、かつ納付した所得税額が過大であり、したがって過誤納金があることを知りながら、職権で直ちに原告に還付充当すべき法律上の義務があるにもかかわらず、これを無視し放置しておいたのである。
すなわち、本件刑事事件において、原告が、毎年の売上帳端分が翌年一月分の売上として公表帳簿に記帳され、この売上に対応する原価分について、期末棚卸額から一部控除されていないのではないかとの疑いを抱くに至り、その旨主張したことに対し、検察官及び国税局は、真摯な検討を加えることなく、漠然と月日を重ねていたが、田川査察官が本件刑事事件の第一審の第一五回公判期日(昭和五四年九月一四日)に出廷し、その証言で、初めて売上帳端に対応する売上原価分の一部が期末商品棚卸高から控除されていないことを認めるに至った。その後、昭和五五年一一月二七日付で国税局収税官吏大蔵事務官横井啓文から検察官宛の報告書により、売上帳端分のうちの絞丸太以外の売上額についての報告がなされ、ついで、昭和五六年六月一日付で、右横井事務官から検察官宛の報告書により、期末商品棚卸高につき犯則所得の誤りを報告し、その結果起訴犯則額が縮減された。国税局は、このように告発した犯則所得に明らかに誤りがあることを承知しながら、本件刑事事件における訴因の減縮を求めたのみで、原告対し、更正の処分をしなかったのである。
(三) 以上のとおり、国税局長、税務署長等において遅滞なく行うべき還付、充当義務に違反し、これを無視し、放置しておきながら、一方、原告において、本件刑事事件の審理終結し、証拠資料が還付された昭和五九年八月二〇日以降に証拠書類を再検討のうえ、所得税額を再確認し、本訴を提起したところ、その間に還付請求の期間が五年を経過しており、過誤納金返還請求権は時効により消滅しているとする被告国の主張は、信義誠実の原則に反し許されないものであり、また、かかる場合には、消滅時効にかからないものというべきである。
(四) また、原告は、本件各決定に対し、昭和五〇年六月二四日に異議申立をし、申立後三か月を経過するもその処分がないため、同年一一月二七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。右審査請求の内容は、青色申告承認の取消処分についての取消し、昭和四六年分ないし昭和四八年分の所得税にかかる重加算税賦課決定の取消し、及び右各年分の所得額の更正を各求めるものであった。
国税不服審判所は、右審査請求について、本件刑事事件の結果が出るまで何らの実質審査もせずに放置し、控訴審の判決がなされた後の昭和六一年五月二六日に裁決を行った。右裁決は、重加算税賦課決定を一部取り消したほかは、青色申告承認の取消処分についてはこれを棄却し、その他の審査請求(昭和四六年分ないし昭和四八年分の事業所得の一部取消請求)について、却下するというものであった。
右各年分の事業所得の一部取消しの請求については、申立人が修正申告をなしており、税務機関による何らの処分がないとの判断でこれを却下したものであるが、これを理由とするならば、審査請求書の記載自体から直ちに判断できたにもかかわらず、国税不服審判所は一〇年六か月も放置していたのである。右請求について、適法な申立と信じていた原告は、そのために、更正の請求を求める機会を失してしまったのである。
右のような事情に照らしてみても、原告の過誤納金返還請求に対し、被告国が消滅時効の主張をすることは許されないというべきである。
六 再抗弁に対する認否及び被告国の反論
(認否)
1 再抗弁冒頭の主張は争う。
2(一) 同1(一)のうち、国税局長または税務署長が、職権により還付に代え、重加算税等に充当すべきであったとの主張は争う。
(二) 同1(二)のうち、国税局長、原告が修正申告し、かつ納付した所得税額が過大であり、従って過誤納金があることを知りながら、職権で直ちに原告に還付充当すべき法律上の義務があるにもかかわらず、これを無視し放置しておいたとの主張は争う。
(三) 同1(三)の主張は争う。
(四) 同1(四)のうち、原告が、本件各決定に対し、昭和五〇年六月二四日に異議申立をし、申立後三か月を経過するもその処分がないため、同年一一月二七日、国税不服審判長に対し、審査請求をしたこと、及び控訴審の判決がなされた後の昭和六一年五月二六日に裁決がなされたことは認め、国税不服審判所は一〇年六か月も審査請求を放置し、そのために原告が更正の請求を求める機会を失してしまったとの主張、及び原告の過誤納金返還請求に対し、被告国が消滅時効の主張をすることは許されないとの主張は争う。
3 同2の主張は争う。
(反論)
1 再抗弁1(二)について
原告は、本件刑事事件において訴因の減縮が行われたことをもって、国税局長は、原告が修正申告し、かつ納付した所得税額が過大であり、したがって過誤納金があることを知りながら、これを無視し放置していた旨主張する。
しかしながら、刑事裁判手続は、逋脱罪の成立の有無を判断するとともにこれに対する適正な処罰を行うために、犯則所得金額を認定するためのものであるのに対し、課税手続は、適正かつ公平な課税を行うために課税所得金額を確定するためのものであって、両者はその要件、効果及び目的を異にする別個の手続であるから、刑事事件における訴因の減縮は、課税手続に何ら効果を及ぼすものではない。
2 再抗弁1(四)について
原告は、国税不服審判所の審査手続が遅滞していたために、更正の請求を求める機会を失してしまった旨主張する。
しかしながら、国税通則法一一五条一項但書によれば、原告は、裁決を待つことなく他の救済方法をとりうるのであり、また、無効を理由とする場合は、不服申立を行うことなく直ちに訴訟を提起できるのであるから、原告の右主張は失当である。
(丙事件)
一 請求原因
1 甲事件における請求原因1ないし3記載のとおり。
2 原告は、昭和四七年分の重加算税として、①昭和六一年一二月一九日に四九五万八九〇〇円、②昭和六二年一月三〇日に五〇〇万円、③同年三月二日に二四万一一〇〇円をそれぞれ被告国に納付し、また、昭和四八年分の重加算税として、④昭和六二年三月二日に四七三万〇三〇〇円、⑤同月三一日に五〇〇万円、⑥同年四月二八日に一八三万四七〇〇円をそれぞれ被告国に納付した。
3 しかしながら、昭和四七年分の重加算税は九五〇万二二〇〇円とされるべきであり、また、昭和四八年分の重加算税は三五八万六二〇〇円とされるべきであるから、右金額を超えて納付した八六七万六六〇〇円は、過納金として還付されるべきである。
4 よって、原告は、被告国に対し、過納金返還請求権に基づく八六七万六六〇〇円の支払、及びこれに対する原告が被告国に対して重加算税を納付した最終日の翌日である昭和六二年四月二九日からその還付のための支払決定の日まで国税通則法所定の年7.3パーセントの割合による還付加算金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告国の反論
(認否)
1 請求原因1については、甲事件における請求原因1ないし3に対する被告豊能税務署長の認否のとおりである。
2 同2の事実は認める。
3 同3の主張は争う。
(反論)
本件各決定は、被告豊能税務署長によって取り消されていない以上、原告が本訴において還付を求める金員は、未だ過納金として発生していないから、原告の右請求はそれ自体失当である。
また、仮に本件各決定が被告豊能税務署長によって取り消され、あるいは判決によって取り消された場合には、被告豊能税務署長は、国税通則法五六条に基づき遅滞なく還付手続をしなければならないのであるから、いずれにせよ本訴請求は失当である。
第三 証拠<省略>
理由
(甲事件)
一請求原因1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。
二本件各修正申告の有効性
1 原告が錯誤を主張する基礎となる事実について
(一) 長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入について
(1) <証拠>によれば、以下の各事実が認められる。
(ア) 長谷川は、昭和四八年一二月三〇日まで菅生木材に勤めていたが、翌昭和四九年一月に長谷川銘木株式会社を設立して独立することになっていたため、その資金が必要であった。そこで長谷川は、菅生木材に勤務しながら、長谷川自身の所有する山林から切り出した木で絞丸太を加工し、これを原告に販売することによって右独立資金の調達をしていた。ただ、長谷川は、長谷川自身の名前で原告と取引することは菅生木材との関係で問題が生じることになりかねないとの考えから、原告とは、中善林業ないし福本木材(福本銘木)との架空の名前を使った仮名取引を行っていた。
(イ) 長谷川は、昭和四八年一二月に、原告に対し、絞丸太一二〇本を一〇六六万円で売却し、同月二〇日ころ菅生木材のトラックを借りて、右絞丸太を一括して原告に納品したが、これも仮名取引とすることとし、中善林業の名前で六九六万円、福本木材の名前で三七〇万円をそれぞれ原告に売却したこととした。
(ウ) 長谷川は、右取引につき、税金対策から昭和四九年の取引にしてもらいたい旨原告に要請し、原告もこれを了承した。
そこで原告は、清枝に対し、仕入帳には昭和四九年の仕入として記帳するよう命じ、清枝は、新年度の仕入が一月一〇日ころから始まるため、これと区別するために、中善林業からの仕入は一月六日、福本木材からの仕入は一月八日とすることとし、これを従業員の山田一恵に指示して仕入帳に記載させた。
以上の各事実が認められる。
これに対し、<証拠>には、本件仕入が昭和四九年の仕入である旨の記載部分があるが、右記載部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右認定した事実によれば、長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入は、原告と長谷川間に昭和四九年の取引とする旨の合意があったとしても現実の仕入行為が昭和四八年一二月に行われている以上昭和四八年の仕入というべきである。
(二) 売上帳端分について
(1) <証拠>によれば、以下の各事実が認められる。
(ア) 原告では、請求の締切日が毎月二〇日の得意先と二五日の得意先があったことから、一二月二〇日から二五日にかけて年末の実地棚卸を行っており、昭和四七年及び昭和四八年の期末の実地棚卸も、それぞれ一二月二〇日から二五日にかけて行った。そして、この棚卸期間中に荷動きがあった場合は、入荷した商品は在庫に加え、売却した商品については在庫から削除していたが、右棚卸期間後の一二月二六日から三一日にかけて売却した商品(いわゆる売上帳端分)については、翌年度一月分の売上として計上していた。
(イ) これに対し査察部は、このような売上帳端分について、翌年度の売上とするのではなく、当該年度の売上に計上すべきであるとして、昭和四七年一二月二六日から三一日にかけて売却した商品の金額を昭和四七年分の事業所得の売上金額に加算した金額及び昭和四八年一二月二六日から三一日にかけて売却した商品の金額を昭和四八年分の事業所得の売上金額に加算した金額を、原告に本件各係争年分の所得税についての修正申告をしょうようした際に示した。
査察部は、右売上帳端分のうち、絞丸太についてはその原価計算をし、これを各年の期末商品棚卸高から控除していたが、右売上帳端分には、絞丸太以外にも、昭和四七年分については売上高一七〇〇万九七五八円、昭和四八年分については売上高三七九一万五七三一円の商品がそれぞれ含まれていたところ、査察部では、これら商品についてはその売上原価を期末商品棚卸高から控除していなかった。
以上の各事実が認められる。
これに対し、<証拠>には、実地棚卸後に荷動きがあった場合にも在庫の修正を行い、正しい棚卸商品を確定していた旨の記載部分があるが、右記載部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右(1)の認定によれば、昭和四七年及び昭和四八年の絞丸太以外の売上帳端分の商品の原価を各年の期末商品棚卸高から控除する必要があるところ、右原価は、期首商品棚卸高に期中の仕入高を加え、さらに売上帳端分の原価を含んだ期末商品棚卸高を減じた数額を算出し、これを期中の売上高から絞丸太以外の売上帳端分を減じた数額で除することによって原価率を計算し、絞丸太以外の売上帳端分にこの原価率を乗ずることによって算出される。
まず、昭和四七年分についてみるに、期首商品棚卸高が一億五〇〇〇万円、期中の仕入高が一二億七七五二万一三三七円、期中の売上高が一五億〇一一〇万七八八九円であることは当事者間に争いがなく、売上帳端分を含んだ期末商品棚卸高が一億一三一五万一七九〇円であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、絞丸太以外の売上帳端分が一七〇〇万九七五八円であることは右(1)で認定したとおりであるから、これに基づき同年の原価率を計算すると別紙一のとおり原価率は88.57パーセントとなり、絞丸太以外の売上帳端分の原価は一五〇六万五五四三円となる。
次に昭和四八年分についてみるに、期中の売上高が二八億五一五八万四五七九円であることは当事者間に争いがなく、期首商品棚卸高は昭和四七年の期末商品棚卸高と同額になるから一億一三一五万一七九〇円から前認定の一五〇六万五五四三円を控除した九八〇八万六二四七円となり、期中の仕入高は、長谷川からの絞丸太一〇六六万の仕入を除く仕入高が二八億〇七四二万八八二〇円であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、右長谷川からの絞丸太の仕入については、前記(一)で認定したとおり昭和四八年の仕入とすべきであるから、結局、期中の仕入高は二八億一八〇八万八八二〇円となり、売上帳端分を含んだ期末商品棚卸高が三億二七八一万四八三一円であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、絞丸太以外の売上帳端分が三七九一万五七三一円であることは右(1)で認定したとおりであるから、これに基づき同年の原価率を計算すると別紙二のとおり原価率は92.00パーセントとなり、絞丸太以外の売上帳端分の原価は三四八八万二四七八円となる。
(三) 組合費について
<証拠>によれば、原告は、昭和四八年当時、大阪木材仲買協同組合に対し、月々一〇〇〇円、年間にして一万二〇〇〇円の賦課金を納めており、右金員は必要経費となることが認められ、右認定に反する証拠はない。
2 本件各修正申告の経緯
<証拠>を総合すれば、以下の各事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。
(一) 原告は、南税務署長に対し、別表一の確定申告欄記載のとおり、所得税の確定申告を、昭和四七年分については昭和四八年三月一三日に、昭和四八年分については昭和四九年三月一五日にそれぞれなした。
(二) これに対し、査察部は、原告に対し昭和四九年五月二七日、過少申告脱税犯の疑いで強制調査(一部任意調査を含む。)に着手し、原告方及び原告の顧問税理士であった中道税理士の事務所から、一切の会計帳簿、すなわち元帳及び仕入帳、売掛帳等の補助簿、仕入伝票等取引に関するすべての証憑書類を差押え押収し、その後、原告はじめ原告の従業員、取引先等を昭和五〇年四月ころまで調査した。
(三) 査察部の担当者は田川査察官と柴田一郎査察官であったが、田川査察官らは、昭和五〇年四月一四、五日ころ、原告を国税局に呼び、本件各係争年分の所得税につき、修正申告をなすようしょうようし、その翌日には、中道税理士を国税局に呼び、これまでの査察の結果に基づいて作成した増差表を示し、右数額に従って修正申告をなすよう勧めた。
その際、査察部からは、中道税理士に対して、修正申告をなすに必要な最小限の数額が示されたにすぎず、それ以上に、細かい勘定科目についての説明や根拠は示されなかった。
また、当時は、原告ないし中道税理士に対して、差押えられた会計帳簿類の還付はなされておらず、国税局においても、日々の業務に差し障りのないよう売掛帳や買掛帳、あるいは昭和四九年度の会計帳簿についての閲覧謄写は可能であったが、その余の本件各係争年分の会計帳簿類の閲覧謄写は許されていなかった。
(四) 原告自身、査察部から示された右数額にはおかしいところがあるのではないかとの疑念を抱き、また、中道税理士も右数額の根拠が分からない部分があったものの、ここで反論して申告時期を遅らすよりも、査察部の示したとおりの額で修正申告しておいたほうが有利な取扱いをしてもらえ、告発を免れることができるかもしれないとの期待から、原告は、昭和五〇年四月一七日、査察部が示した数額に従い本件各修正申告をなした。
(五) これに対し、南税務署長は、昭和五〇年五月七日、本件各決定をなしたが、原告は、右決定の取消しを求めて、同年六月二三日、南税務署長に対して異議申立を行った。右異議申立後三か月を経過するも異議決定がなされなかったため、原告は、同年一一月二七日、国税不服審判所長に対して審査請求を行った。
右異議申立書の中には、「重加対象所得が前(1)の売上除外以外の例えば棚卸増加額に対応する部分が含まれているとすれば、各年分の期首棚卸額及び売上繰延分の原価その他の認容額(所得減算額)が控除されていないと思われる」との記載があり、また、審査請求書の中には、「昭和四八年分の修正所得金額の計算に算入されている期末棚卸商品のうち在庫調査日(一二月二〇日から一二月二五日)以後販売した額は三二〇四万五〇〇〇円であるが、これの仕入原価(荒利益九パーセントとして二九三九万九〇〇〇円)が期末棚卸高から控除されていない」あるいは「長谷川からの仕入商品絞丸太一二〇本一〇六六万円は査察調査の結果も四九年分の仕入となっているが、実際は四八年一二月二三日鳥飼営業所へ納品済のものであり、四八年分の仕入額に加算すべきものであるが、査察部から示された昭和四八年分仕入くりのべ額二三九七万三〇〇〇円にはこの分が算入されていない」との趣旨の各記載がある。
以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 原告は、本件各修正申告は錯誤により無効であると主張する。
ところで、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用し、納税申告書記載内容の過誤の是正については国税通則法及び所得税法に特別の規定が設けられているが、これは、所得税の課税標準等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし、その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いる虞れがないと認めたからにほかならない。したがって、納税申告書の記載内容の過誤の是正について、法定の方法によらないでその記載内容の錯誤を主張することができるのは、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、国税通則法及び所得税法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限られると解すべきであり(最高裁昭和三九年一〇月二二日判決・民集一八巻八号一七六二頁参照)、修正申告も課税標準・税額等に関する納税申告行為である以上、修正申告の過誤の是正の場合についても同様に解すべきである。
これを本件についてみるに、本件各修正申告がなされた経緯は2で認定したとおりであるところ、右申告当時、原告及び中道税理士のもとには、査察部から示された数額を逐一正確に検討するだけの会計帳簿類は存在しなかったものの、右数額のおおよその正確性については判断可能であったものというべきである。すなわち、差押えにかかる会計帳簿類が原告に還付されたのは、本件刑事事件(昭和五一年一月二三日起訴)の公判が始まった後であることは原告の自認するものであるところ、原告は、前記のとおりそれ以前の本件各決定に対する異議申立及び審査請求のなかで、既に売上帳端分及び長谷川からの絞丸太の仕入について、本件各修正申告には誤りがあることを主張しているのであるから、右事実に鑑みれば、原告は、田川査察官らから数額を示されて修正申告のしょうようを受けた際、中道税理士と右数額を検討することによって、その誤りを発見し、あるいは、少なくとも問題点を指摘し、田川査察官らにその根拠につき具体的に説明を求める等してその誤りを是正したうえで修正申告することが可能であったものというべきである。
したがって、仮に本件各修正申告の内容につき、原告主張のような錯誤が存したとしても、右錯誤を認めなければ原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるものとはいえない。
4 また、原告は、本件各修正申告は任意になされたものではない旨主張する。しかし、本件各修正申告の経緯は2で認定したとおりであり、右事実からすると、原告は、自らの意思で本件各修正申告をなしたものと認められるから、本件各修正申告は任意になされたものといえる。原告の右主張は失当である。
5 よって、本件各修正申告の無効をいう原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三昭和四八年分の渡部木材分、貿易勘定分及び東邦産業分の各仕入の過大計上について
1 渡部木材からの仕入八五〇万円について
(一) <証拠>によれば、以下の各事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。
(1) 原告は、昭和四八年五月ころ、渡部木材との間で融通手形八五〇万円を交換したが、当時、原告の従業員で経理を担当していた岡は、右事情を知らなかったため、支払手形につき、同月三一日付で、①借方買掛金三五〇万円、貸方支払手形三五〇万円、②借方買掛金五〇〇万円、貸方支払手形五〇〇万円との、借方の勘定科目を誤った二通の振替伝票を起票した。
(2) 岡は昭和四八年五月三一日付で退職したため、原告は、同年六月、顧問税理士の中道税理士に対し、元帳への記帳及び月々の試算表の作成を依頼し、合わせて経理面での誤りに対しても注意してもらうよう依頼した。また、同月一日からは、清枝が経理を手伝うようになった。
(3) その後、昭和四八年六月三〇日ころに、渡部木材が原告方に集金に来た際、買掛金の額が少なくなっていたため、帳簿を合わせてみたところ、八五〇万円を支払ったような形になっていたため、原告は(1)記載の起票の誤りに気付いた。そこで原告は、同日付で、借方仮受金八五〇万円、貸方買掛金八五〇万円との訂正伝票を起票した。
そして、清枝が右訂正伝票に基づき仕入帳に記帳したが、清枝は以前は経理に携わっていたことがあるものの、その後長年経理の仕事はしていなかったため、仕入帳の支払金額欄に△(赤字)八五〇万円と記載すべきところ、誤って仕入金額欄に八五〇万円を計上し、かつ、六月分の仕入集計表に右金額を仕入金額として算入したため、八五〇万円の仕入の過大計上が発生した。
(4) 原告は、中道税理士から特に指摘されなかったこともあり、右過大計上について、昭和四八年分所得税の確定申告に至るまで気が付かなかった。
以上の各事実が認められる。
これに対し、被告豊能税務署長は、仮に記帳ミスから過大計上となったとしても、税理士が作成する月々の試算表からすぐ誤りが判明したものというべきであると主張するが、試算表は一か月の金額を総計したものであるところ、原告の昭和四八年度の仕入金額が約二八億円に上ることは当事者間に争いがなく、したがって月々の仕入金額も平均すると約二億円余りとなるのであるから、試算表の金額からただちに八五〇万円の仕入の過大計上が判明するとはいえない。
(二) 国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺいまたは仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課せられる行政上の措置であるから、同法六八条一項による重加算税を課すためには、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないが、納税者が故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠ぺいし、または仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであることが必要である(最高裁昭和六二年五月八日判決、裁判集民事一五一号三五頁参照)。そして、期中における経理処理の際に、課税要件となる事実についてこれを仮装または隠ぺいすることについての認識がある場合や、あるいは、期中において経理上の誤りなどによって、行為者の意識しない事実に相反する経理処理がなされた場合であっても、申告期限前にこの誤処理を発見しながら、ことさらこれを訂正しなかった場合には、訂正しないという積極的な意識がある以上、その時点で事実を仮装または隠ぺいしたことになり、また認識して訂正しない点で故意が認められることになるから、このような場合には、納税者が故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠ぺいし、または仮装したというべきである。
これを本件についてみるに、(一)で認定したとおり、右過大計上は、帳簿上の記載の誤りから生じたものであり、また、右誤りについて、原告は、昭和四八年分の所得税の確定申告に至るまで知らなかったものであるから、訂正が必要であることを認識しながらこれを放置していたものとはいえず、原告が故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、または仮装したものということはできない。
したがって、右渡部木材からの仕入の過大計上分八五〇万円については、重加算税の対象とすることはできず、過少申告加算税の対象となるに過ぎないものというべきである。
2 東邦産業からの仕入九一四万一二六三円について
(一) <証拠>によれば(甲第二一号証、第二八号証及び第四一号証並びに原告本人尋問の結果については一部措信しない部分を除く。)、以下の各事実が認められる。
(1) 原告は、昭和四八年一二月ころ、ヒロシ産業の向谷弘を通じて、東邦産業から台湾産の欄間の輸入材を購入することとし、同月二〇日、満期を昭和四九年三月三一日とする、額面九一四万一二六三円の約束手形を東邦産業宛に振り出し、元帳の仕入勘定欄に同金額を計上した。
(2) 右輸入材は昭和運輸株式会社の保税倉庫に保管されていたが、原告が右約束手形を振り出した後、右輸入材を確認したところ、粗悪な商品であることが判明し、また、当時欄間の相場が落ちていたため、原告は、右輸入材の仕入を取り止めることとした。しかしながら、原告は、右元帳の記載を訂正しなかったため、九一四万一二六三円の仕入の過大計上が発生した。
以上の各事実が認められる。
これに対し、原告は、右輸入材を現実に仕入れている旨主張し、<証拠>中には右主張に沿う部分があるが、これらは<証拠>に照らしたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 重加算税を賦課するための要件は、1(二)に記載したとおりであるが、これを本件についてみるに、(一)で認定したとおり、右過大計上は、原告が輸入材の仕入を取り止めたにもかかわらず、元帳の訂正をしなかったために生じたものであるが、本件仕入金額が九一四万一二六三円と高額に上ることに鑑みれば、単に訂正を失念していたものということはできず、訂正が必要であることを認識しながらこれを放置していたものというべきであるから、原告は故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、または仮装したものといえる。
したがって、右東邦産業からの仕入の過大計上分九一四万一二六三円については、重加算税の対象となるものというべきである。
3 貿易勘定七一八万六〇五〇円について
(一) <証拠>によれば、以下の各事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。
(1) 原告は、信用状により、外国から欄間板を一万三五〇〇ドル(支払期日における為替相場により、日本円では三五九万三〇二五円)で仕入れた。右仕入につき、岡は、昭和四八年五月三一日、貿易勘定で仕入れをし、その代金が未払という趣旨で①借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円との振替伝票を起票して経理処理をした。
(2) その後、岡が退職したため、岡が右①の振替伝票を起票したことを知らなかった原告は、昭和四八年六月二六日、②借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方大和銀行三五九万三〇二五円との振替伝票を起票した。
ところが、翌二七日に中道税理士から渡された六月分の試算表には、同月二六日に支払ずみとなっているはずの貿易勘定の未払金の勘定科目が残っていたため、原告は、これを訂正するために、同日、③貸方未払金三五九万三〇二五円、貸方大和銀行三五九万三〇二五円との振替伝票を起票した。
(3) その後、原告は、岡が①の振替伝票を起票していることを知り、これを訂正するため、まず同年八月三〇日、「5/31ランマ板仕入に付振戻し」と摘要欄に記載して、④借方貿易勘定未払金三五九万三〇二五円、貸方仕入三五九万三〇二五円との振替伝票を起票し、さらに同年一〇月二日には、まず、摘要欄に「6/27日伝票訂正す」と記載して、⑤借方貿易勘定三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円との振替伝票を起票し、また、同様に、摘要欄に「8月30日伝票二重に付訂正」と記載して、⑥借方仕入三五九万三〇二五円、貸方未払金三五九万三〇二五円との振替伝票を起票した。
ところが、原告は、岡が退職してから記帳を始めたものであり、経理に不慣れであったため、振替伝票の仕訳を間違え、何度も訂正伝票として振替伝票を起票するなかで、結局三五九万三〇二五円の二口分合計七一八万六〇五〇円の過大な計上が生じるに至った。
(4) 原告は、中道税理士から特に指摘されなかったこともあり、右過大計上について、昭和四八年分所得税の確定申告に至るまで気が付かなかった。
以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) 重加算税を賦課するための要件は、1(二)に記載したとおりであるが、これを本件についてみるに、(一)で認定したとおり、右過大計上は、振替伝票の起票の誤りから生じたものであり、また、右誤りについて、原告は、昭和四八年分の所得税の確定申告に至るまで知らなかったものであるから、訂正が必要であることを認識しながらこれを放置していたものとはいえず、原告が故意に課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、または、仮装したものということはできない。
したがって、右貿易勘定の仕入の過大計上分七一八万六〇五〇円については、重加算税の対象とすることはできず、過少申告加算税の対象となるに過ぎないものというべきである。
四本件係争各年分の重加算税等の額について
1 昭和四七年分
(一) 原告の昭和四七年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額のうち、別表四の昭和四七年分欄記載の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得及び⑥譲渡所得の各欄について、並びに事業所得の内訳のうち、別表二の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①売上金額、②期首商品棚卸高、③仕入金額、⑦必要経費及び⑨青色申告特典控除額の各欄については、当事者間に争いがない。
(二) 期末商品棚卸高について
(1) 昭和四七年の期末商品棚卸高についての原告の確定申告額が七四一七万〇二九〇円であり、修正申告額が一億一三一五万一七九〇円であることは、当事者間に争いがないから、修正申告額と確定申告額の差額である修正増加所得の額は三八九八万一五〇〇円となる。
また、<証拠>によれば、当年末商品棚卸高除外として三八九八万一五〇〇円が重加算税の対象とされていることが認められるところ、右金額のうち一五〇六万五五四三円(原告が絞丸太以外の売上帳端分の原価として主張する額)を除くその余の部分が重加算税対象所得となることも当事者間に争いがない。
(2) そこで、右一五〇六万五五四三円についてみるに、絞丸太以外の売上帳端分の原価一五〇六万五五四三円は、二1(二)で認定したとおり、期末商品棚卸高から控除すべきものであったにもかかわらず控除されずにそのまま計上されているものであるから、当年末商品棚卸高除外三八九八万一五〇〇円の中に右売上帳端分の商品が含まれていた場合には、その部分については、隠ぺいまたは仮装に基づくものとはいえないところ、本件各証拠によってもこれが含まれていたか否かは明らかでない以上、右一五〇六万五五四三円については、隠ぺいまたは仮装に基づくものということはできないから、重加算税の対象とはならず、過少申告加算税の対象となるに過ぎないものと解すべきである。
(三) 以上によれば、昭和四七年分の重加算税等の計算の基礎となる各対象所得のうち事業所得の額の内訳は、別表一二記載のとおりであり、各対象所得の額は別表一三の昭和四七年分欄のとおりであるから、重加算税等の額は、別表一四のとおりとなる。
2 昭和四八年分
(一) 原告の昭和四八年分の重加算税等の計算の基礎となった各対象所得の額のうち、別表四の昭和四八年分欄記載の修正増加所得欄及びの内訳欄のうちそれぞれ①利子所得、②配当所得、③不動産所得、⑤給与所得、⑥譲渡所得及び⑦雑所得の各欄について、並びに事業所得の内訳のうち、別表三の修正増加所得欄及びの内訳欄のうち①売上金額欄及び⑨青色申告特典控除額欄については、当事者間に争いがない。
(二) 期首商品棚卸高について
昭和四八年の期首商品棚卸高についての原告の確定申告額が七四一七万〇二九〇円であり、修正申告額が一億一三一五万一七九〇円であることは、当事者間に争いがないから、修正申告額と確定申告額の差額である修正増加所得の額は三八九八万一五〇〇円となる。
また、右修正増加所得の内訳のうち一五〇六万五五四三円(原告が昭和四七年分の絞丸太以外の売上帳端分の原価として主張する額)を除くその余の部分が重加算税対象所得となることも当事者間に争いがない。
そして、1(二)で昭和四七年分の期末商品棚卸金額についての認定と同様に、右一五〇六万五五四三円については、重加算税の対象とはならず、過少申告加算税の対象となるものと解すべきである。
(三) 仕入金額について
(1) 昭和四八年の仕入金額についての原告の確定申告額が二八億〇五七一万二四六二円であり、修正申告額が二八億〇七四二万八八二〇円であることは、当事者間に争いがないから、修正申告額と確定申告額の差額である修正増加所得の額は一七一万六三五八円となる。
また、<証拠>によれば、三で判断した渡部木材からの仕入八五〇万円、東邦産業からの仕入九一四万一二六三円及び貿易勘定分七一八万六〇五〇円の合計二四八二万七三一三円についてのみ重加算税の対象とされていることが認められる。
(2) 右渡部木材分、東邦産業分及び貿易勘定分の合計二四八二万七三一三円については、三1ないし3で判断したとおり、東邦産業からの仕入九一四万一二六三円については重加算税の対象となり、渡部木材からの仕入八五〇万円及び貿易勘定分七一八万六〇五〇円の合計一五六八万六〇五〇円については重加算税の対象とはならず、過少申告加算税の対象となるに過ぎない。
(3) 原告は、右の外長谷川からの絞丸太一〇六六万円の仕入についても、重加算税対象所得から控除すべきである旨主張するが、重加算税等の額の計算に当たっては修正申告にかかる所得額をもって修正増加所得を算定し、右修正申告により新たに納付すべきこととなった増差税額を計算の基礎とすべきであるところ、そもそも原告は、昭和四八年分の所得税についての確定申告及び修正申告のいずれにおいても右仕入を計上していないのであり、また右修正申告が有効なものであることは二で認定したとおりであるから、右仕入を重加算税等の額の計算に当たって考慮することはできない。
(四) 期末商品棚卸高について
(1) 昭和四八年の期末商品棚卸高についての原告の確定申告額が二億九六九七万八九七一円であり、修正申告額が三億二七八一万四八三一円であることは、当事者間に争いがないから、修正申告額と確定申告額の差額である修正増加所得の額は三〇八三万五八六〇円となる。
また、<証拠>によれば、当年末商品棚卸高除外として七一九九万五三九〇円が重加算税の対象とされていることが認められるところ、右金額のうち三四八八万二四七三円(原告が絞丸太以外の売上帳端分の原価として主張する額)を除くその余の部分が重加算税対象所得となることも当事者間に争いがない。
(2) そこで、右三四八八万二四七三円についてみるに、絞丸太以外の売上帳端分の原価三四八八万二四七三円は、二1(二)で認定したとおり、期末商品棚卸高から控除すべきものであったにもかかわらず控除されずにそのまま計上されているものであるから、当年末商品棚卸高除外七一九九万五三九〇円の中に右売上帳端分の商品が含まれていた場合には、その部分については隠ぺいまたは仮装に基づくものとはいえないところ、本件各証拠によってもこれが含まれていたか否かは明らかでない以上、右三四八八万二四七三円については、隠ぺいまたは仮装に基づくものということはできないから、重加算税の対象とはならず、過少申告加算税の対象となるに過ぎないものと解すべきである。
(五) 必要経費について
(1) 昭和四八年の必要経費についての原告の確定申告額が一億三八六八万九三七〇円であり、修正申告額が一億四〇七三万七五五八円であることは、当事者間に争いがないから、修正申告額と確定申告額の差額である修正増加所得の額は二〇四万八一八八円となる。
また、右修正増加所得の内訳のうち二1(三)で認定した組合費一万二〇〇〇円を除くその余の部分のうち、四六八万九五〇八円が重加算税対象所得となり、△二六四万一三二〇円が正当部分となることも当事者間に争いがない。
(2) そこで、右組合費一万二〇〇〇円についてみるに、<証拠>によれば、原告は昭和四八年分の確定申告においてはこれを必要経費として計上していたものの、修正申告においてはこれを必要経費から除外していることが認められるところ、右組合費は、二1(三)で認定したとおり必要経費となるものであるから、右一万二〇〇〇円は重加算税の対象とはならず、過少申告加算税の対象となるに過ぎないものと解すべきである。
(六) 以上によれば、昭和四八年分の重加算税等の計算の基礎となる各対象所得のうち事業所得の額の内訳は、別表一五記載のとおりであり、各対象所得の額は別表一三の昭和四八年分欄のとおりであるから、重加算税等の額は、別表一六のとおりとなる。
五ところで、重加算税の賦課は、過少申告加算税の賦課に相当する部分をその中に含んでいるものと解すべきであるから(最高裁昭和五八年一〇月二七日判決・民集三七巻八号一一九六頁参照)、重加算税の対象とならない部分についても、過少申告加算税の対象となる範囲においては原告の請求を棄却すべきであり、これを超える部分についてのみ重加算税賦課決定を取り消すべきものである。
これを本件についてみるに、昭和四七年決定については、重加算税の額は一〇〇五万三〇〇〇円となるが、一方で、前認定のとおり重加算税対象所得とされていたものの一部を過少申告加算税の対象となるものとしたことにより過少申告加算税の額は四八万五五〇〇円となり、審査裁決により認定された四六万八五〇〇円よりも一万七〇〇〇円増加することになるから、結局昭和四七年決定については一〇〇七万円を超える部分を取り消すべきこととなる。
次に昭和四八年決定については、重加算税の額は八一六万六〇〇〇円となるが、同様に、前認定のとおり重加算税対象所得とされていたものの一部を過少申告加算税の対象となるものとしたことにより過少申告加算税の額は一二三万六五〇〇円となり、審査裁決により認定された六八万二五〇〇円よりも五五万四〇〇〇円増加することになるから、結局昭和四八年決定については八七二万円を超える部分を取り消すべきこととなる。
(乙事件)
一不当利得返還請求権に基づく請求について
本件各修正申告が有効なものであることは、甲事件における理由二で説示したとおりである。
したがって、本件各修正申告が有効である以上、原告が被告国に対して過大に納付したと主張する所得税は法律上の原因のないものとは言えず、右所得税は被告国の不当利得にはあたらない。
よって、被告国に対し不当利得の返還を求める原告の請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
二国家賠償請求権に基づく請求について
原告が本件各修正申告をなした経緯は甲事件における理由二2で認定したとおりであり、また、右修正申告が任意になされたことは同二4で判断したとおりである。
したがって、原告は、田川査察官らから修正申告のしょうようを受けたにせよ、原告は査察部から示された数額に疑念を抱き、中道税理士も右数額の根拠に分からない部分があったものの、有利な取扱いや告発を免れることを期待して自らの判断で任意に本件各修正申告をなしている以上、田川査察官らの税務調査、それに基づく処理、原告に対する修正申告のしょうようといった田川査察官らの行為と、原告がなした本件各修正申告との間には直接の関連性はなく、両者の間に因果関係を認めることはできない。
よって、田川査察官らの右行為を原因として被告国に対して国家賠償を求める原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(丙事件)
原告は、本件各決定に基づく本件各係争年分の重加算税につき、昭和四七年分については九五〇万二二〇〇円を超える部分、昭和四八年分については三五八万六二〇〇円を超える部分の各取消しを求めるとともに(甲事件)、本訴においては、右金額を超えて納付した金員を過納金としてその還付を求めている。
しかしながら、本件過納金返還請求は本件各決定の無効を理由とするものではなく(第二〇回口頭弁論期日における原告の陳述)、また、本件口頭弁論終結時においても、本件各決定は被告豊能税務署長によって取り消されてはいないし、また、これを取り消す旨の確定判決も存しないから、原告が本訴において還付を求める金員は、その納付の根拠となった本件各決定が有効に存在する以上、過納金にはあたらない。
よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。
(結論)
以上によれば、原告の被告豊能税務署長に対する請求のうち①昭和四七年決定については一〇〇七万円を超える部分、②昭和四八年決定については八七二万円を超える部分についてはいずれも理由があるからこれを認容し、被告豊能税務署長に対するその余の請求及び被告国に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田畑豊 裁判官小林元二 裁判官田中健治)
別紙<省略>